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2022.3.31 - COLUMN B-SIDE

colormal Gt/Vo.イエナガリョウにとっての「ジャズマスター」のNAKAMI

僕が初めてギターを手にしたのは10年と少し前。高校の軽音楽部で幾度となくコピーバンドを経験し、大学生になってからは自分で曲を作りたい気持ちでいっぱいに。その為にも、まずは初心者用のものから「これぞ自分」と思えるようなギターに乗り換えたいと。

形ばかりの浅ましい悩みをぶら下げつつ、結局はサークルでやはりコピーバンドばかりをこなし、いつしか曲を作りたいと言う野望も薄れつつあった19歳の頃。

そんなタイミングで出会ったのが今も使っている「ジャズマスター」と呼ばれるギター。サークルで使っていたスタジオで所謂「貸しギター」として吊るされていたものだ。店長に何度もお願いして売って頂いた一品。なんと、もともとはそのスタジオ前で粗大ゴミとして捨てられていた物だったらしい。型番を調べると、自分と同じ年に生まれたと言うからおあつらえ向きだった。

兎に角、一目惚れで手に入れたこの一本には大変に苦労を強いられた。「ジャズ」とは名ばかりの甲高い音に、凡百のギターではあり得ないような故障ばかり。困った僕が駆け込んだリペアショップには、バンドで活動するようになった今でもお世話になっている。後から知ったが、そもそも粗大ゴミからギターとして蘇らせたのも、このリペアマンだった。

一曲録音しては修理をし、ライブに出演しては改造を。繰り返すうちにこのジャズマスターの中身は手に入れた頃の状態を殆ど留めていないまでになってしまった。大学生らしく、モラトリアムの真ん中で頼まれもしない大酒を飲んでは酔っぱらい、路上にこのギターを擦り付けたりすることもあった。今まで自分が作った楽曲や演奏に、このギターが関わらなかったことは殆どないと言って差し支えない。

さて、ここまで歴史と愛が込められてはいるが、決してこのギターの音は良くない。こちらが上手く弾いても、どうしようもない音で返してくることもあるし、持ち主より饒舌なこともある。他にこれより音の良い物なんて何本でも弾いてきた。それでも尚、このジャズマスターに手を伸ばしてしまう。

そんな、このギターの中身はなんだろう。
時間、かけてきたお金でもあり、そもそも自分の写し鏡にすらなりつつある。心から信頼しているわけでもなく、それでも付き合い続ける道具の中身にこそ「付喪神」が宿っているのかと、思えば少しは良い音で鳴ってくれるだろうか。

BIOGRAPHY

大阪を中心に活動する4人組バンド。2015年4月にイエナガ(Gt/Vo)の宅録ソロユニットとして活動を開始。2018年にリリースされた1stミニアルバム『merkmal』は自主制作ながらヒトリエ/cakeboxのシノダがコメントを寄せるなど多くの話題を呼び、シーンを越えて愛される作品となった。同年12月よりサポートメンバーを迎えてライブ活動を開始。これまでに君島大空、笹川真生、パソコン音楽クラブ、ラブリーサマーちゃん、For Tracy Hydeらと共演。また声優・上田麗奈の音源にも参加・ベルマインツの楽曲をプロデュースするなどギタリスト・編曲家としても活動の幅を広げている。2021年よりやささく。(Gt)、マツヤマ(Ba)、田井中(Dr)を迎えたバンド体制となる。同年7月にバンド体制初のEP『losstime』をリリース。2022年4月30日(水)に渋谷TOKIO TOKYOにてキャリア初のワンマン公演を開催予定。

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