「名曲をテープに吹き込んで」
1996年に発売された楽曲のサビ前のこのフレーズが大好きなんです。聴きたい音楽を持っておくのに、CDを買ったりTSUTAYA等でレンタルしてから自宅のCDコンボでカセットテープに録音するのです。
YUTOがCDウォークマンにまつわるコラムを書きましたが、「テープに吹き込む」という文化はCDウォークマンもまだなかった時代です。20年以上前、僕が小学生のころ家族で車に乗ると、両親の好きな曲が詰まったカセットテープから音楽が流れていました。不思議ですよね。今でもどんな音楽が流れていたか、はっきりと覚えているのです。(あれ?よく考えると、子供向けの歌を聴かせてもらってなかったってことか…)
その中でもこの曲が好きで、旅行に向かう車内で聴くのが最高でした。その名残りからか、今でも車や新幹線で1曲目に聴いています。「旅が始まるぞ〜」という心地がするんですよね。「旅が始まる!」ではなく、「旅が始まるぞ〜」なんです。だからか、東野・岡村の旅猿のテーマソングでもありますよね。ステキな選曲だなといつも感じます。
出だしの「何もないな 誰もいないな 快適なスピードで」「カレンダーも目的地もテレビもましてやビデオなんて いりませんノンノン僕ら 退屈ならそれもまたグー」で当てもない様子がうかがえ、「気を抜いたらちらりとわいてくる 現実の明日はやぶの中へ」と、意識的、意図的な、デトックスしようという心持ちがリアルなんです。
まさに、モノや情報に溢れ、何もかも速度が早い令和の今において、恋焦がれる世界観が“イージューライダー”にあると感じます。(ソロキャンプなどがブームなのも、こういう文脈があるからこそとも思ったり。)
そんなこの楽曲における「名曲をテープに吹き込んで」というフレーズ。
サブスクなどで簡単に楽曲にアクセスできる現代に、自分の中に「名曲」と呼べる歌がどれほどあるか。
前述の、CDを入手するところから始まっていた平成だったからこそ、楽曲を大事に思っていた気持ちは今以上と思えるし、「テープに吹き込んで」なんて、CDからテープに録音するのにその楽曲の長さそのまま待つ必要があったのです。めんどくさいでしょ。
それだけでなく、カセットテープにラベルシールを貼って、何の曲が入っているか曲名を書いたり、タイトルは「マイベスト」なんてしてみたり。手書きですよ、もちろん。もう一度言います。めんどくさいでしょ。
今風の歌詞にするなら「名曲をプレイリストに追加して」とかになるのかな。間違いなく便利。だけど、カセットテープと比べると色気が弱いのかな。「めんどくささ」というのは、実はどこかその人のオリジナリティをともなった物語となっていて、そこに感情が見え隠れするから「エモい」という単語にも繋がっている気がします。
Apple MusicやSpotifyなどで“イージューライダー”聴いてみてください。間違いなく令和のこの時代に、平成ど真ん中を感じられると思います。
writer: KIYO