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2022.4.13 - INTERVIEW B-SIDE

Mississippi Khaki Hairの新たな覚悟 『Seven – EP』リリースインタビュー

2022年4月13日にEP『Seven – EP』をリリースしたMississippi Khaki Hair(以下MKH)。
以前よりも輪郭が浮き出たサウンドデザインとなり、また歌詞にも一貫したテーマが設定されている。
そうした彼らの変化の裏には、明確な覚悟の芽生えがあったとのこと。
メンバーの入れ替えを経て、新たな志を持った今のMKHの中身とは?
今回彼らの大阪時代からメンバーと交友関係があり、MKHのロゴを手がけたデザイナーでもあるNAKAMIスタッフがTaito Kimura(Vo.Gt.)にリモートインタビューを敢行した。

取材・編集:peter / ライブ写真:Chiaki Fujisaki

周囲の環境が変わりゆく中でのアイデンティティとは

-EPを聴かせていただいた第一印象として、以前の音源よりも明らかにボーカルやリードギターが前に出たミックスに変わっている感じがしました。
結果的に全体の印象として、いい意味でオーバーグラウンドっぽくクリアな印象な音になった気がします。

「そうですね、意識してマスに訴えかける音源を作ろうかなと。言ってみれば、売れにかかりました。(笑)」

-売れにいったということで。(笑)これまでのイメージを壊す作品になっているのかなと思いました。
プロデュースはこれまで通りQUATTROの岩本さんが務められているそうですが、何か意識して変えたことはありましたか?

「そもそもMKH史上初の女性メンバーであるAkaneが加入してから初の音源となりまして。
彼女自身の声、コーラスワークが良くて。そういったタイミングもあり今までのMKHのノイジーで圧力のある感じから脱して、歌詞中にも出てくるんですが天国的なニュアンスのサウンドデザインを心がけました。」

-女性コーラスの居るUSインディーロックバンドや、Pixiesなんかにも通ずるような雰囲気が出たように感じます。

「まさにそのイメージです。特にArcade Fireはすごく意識しましたね。インディーポップ的な、ライトな雰囲気のあるコーラスワークを心がけました。」

-これまであった既存の曲とはどれも少し毛色が違い、また表情のはっきりした3曲が揃っていますね。
変に時代や流行に媚びるわけでもなく、MKHの美学やスタンスは保ったまま分かりやすさが増して、ポストパンクやインディーロックといったジャンルに馴染みのない人にも響きやすそうなキャッチーな音になっていると思います。3曲についてそれぞれ解説をお願いします。

「まず1曲目の“Seven”は、なにより意識したのは天国を描こうと思ったんですね。
歌詞としてはいわゆる失恋ソングなんで、暗くて地獄らしいサウンドを作る方が本来ナチュラルだと思うんですが。天国にいるような気分にいたときから、それを失って悲観に暮れる心境を書いた歌詞なんです。
恋愛中の天国的な雰囲気を描くことで、後がない感じをイメージしたサウンドデザインだったりアレンジメントだったりになっているかなと思います。歌詞は天国から地に落ちたような感じを赤裸々に語る歌詞なんですけど、それに反してサウンドやアレンジメントは天国感を意識していて。喪失感や失ったものを惜しむニュアンスをより伝えられるかなと。」

-あえて幸せだった時間を描くことで、喪失感をより際立たせるような表現手法を取っているんですね。曲名にもなっていて歌詞にも出てくる『7』という数字にはどんな意味が込められているんですか?

「恋愛をすることにおいての射幸心というか…良いものを望んだり希望を持つ気持ちのメタファーとして、歌詞で『サイコロを投げる』という表現を持ち出しています。
サイコロをもう一度投げて、次の出会いに希望を持ち続ける。でも別れてしまった君はサイコロの目で出ないはずの数字の『7』であって、あと何度サイコロを振ってももう二度と君と出会うことはない、という。
そして『天国』がこの曲のテーマであることに対して、『Heaven』と『Seven』で韻が踏めて、サビの歌詞でライミングとしても対応するので、そこがピタッとハマって。曲を作る上で『7』という数字にご縁があったのかなと思っています。」

-次はI’m Right Hereについてお願いします。

「外的環境が良くない状況で日々生活していると、自分を見失うというかアイデンティティを喪失することって誰しもよくあることだと思うんです。
そうしたネガティブなものを受け入れるために、自分なりのやり方、工夫、行動で切り開いて、もっとよくなっていこうというポジティブなマインドについて歌った曲です。」

-前回のシングルの“Tokyo”のMVも主人公が追われて逃げた先に自分自身が待っていたり、アイデンティティクライシスを歌ったような、少し近しいテーマだったのではないでしょうか?

「そうですね。“Tokyo”は僕の実体験というよりも東京の街に捧げた曲で。僕自身は東京での生活を楽しんでいるんですけど、新しい環境に揉まれる中でもがき苦しむ破れかぶれな曲があればと思って書いた曲だったんですね。

それに対して“I’m Right Here”は、自分とは関係のない場所の脅威によって自分を見失うことを歌っているというか。この曲は、たまたまロシアのウクライナ進攻が表面化していなかった頃に…クリミア併合は8年前なのでそれよりは後ですが、今ほどいわゆる戦争になっていなかった半年以上前にこの曲の“ベルリンの壁に引っ掻き傷で虹を描く”であったりとか“チェルノブイリの街中で/ビニール傘を開くんだ”という歌詞を書いていまして。
あくまで負の遺産や情勢不安の象徴として『ベルリン』『チェルノブイリ』という言葉を用いて。書いたときにはまさかこんな戦争が起こるとは想像していなかったので、びっくりしましたが…。」

-そう聞いて気が付いたんですが、今作のジャケットは黄色と青で描かれていますね。ウクライナの国旗の色になっているのは意図したものですか?

「ジャケットは僕が描いたのですが、そのあたりは意図しました。歌詞にチェルノブイリが出てくるからとかではなく、あまりにひどいことが起こっている中で人々に対しての敬意や、『スタンドウィズウクライナ』という意識の表明を絵で表しました。」

-では3曲目、“Speed of Light”に関して。個人的にはライブのセットリストの中でもこの曲を境に空気を変えられるような力のある曲だなと感じました。

「元々は“Speed of Light”をこのシングルのリード曲にしようと思っていたくらい気に入っていた曲で。
曲としては、後戻りできない過去に執着心を持ちながら、それでも進んでいくんだ、という強い意思を描きました。
1番・2番のサビには“光の速度で進んで/随分遠くまで来てしまった”という歌詞もあって、自分の扱えないスピード感で元居たところから離れてしまって、もう戻れないし、今居るここが心休まる場所になることもないだろうという、あまりにも悲惨な絶望を歌い続けているんですが、最後のサビでようやく“光の速度すら超えて/もっと遠くへ”という、ポジティブでなくても進まなければいけないと、少しニュアンスが変わってくるんです。
これからもひどいことがたくさんあるだろうけど、それでも振り向かずできる限り早い速度で進み続ける。という覚悟を表した曲です。」

-なるほど。そう聞くと“Seven”とは同じ手法を使って反対の場面を描いているように感じますね。
歌っている内容が対外的なことか、対内的なことかの違いで2曲が対になっているような。

「テーマは似ていると思うんですけど、“Seven”は近しい他者との関係性を歌っていることに対して、“Speed of Light”は完全に自分のスタンスの問題という。そういった対比はあるかと思います。
“I’m Right Here”も実はそれに近いというか、変わりゆく環境の中で自分のアイデンティティとは何でしょうかというテーマを歌っているので、EPとして上手く一貫したテーマを持たせることができたと思います。」

今が一番良い状態を更新できている

-バンドの近況の方の話にも入っていこうと思います。
2021年は春にKotaro Takaishiさん(Dr.)、秋にAkaneさん(Syn.Cho.)、2人メンバーの加入がありました。
ファンの皆様に2人について紹介をしていただけますか。

「もともとTakaishiとの出会いは偶発的な形で、当初からMKHに加入してはどうかという話もあったんですが、正直僕は最初は流してたんです。
彼は他にやっているバンド(peelingwards)もあって、MKHとはまた全然違ったベクトルのバンドで、そっちにフィットしているイメージが強くて。いろんなバンドでドラムを叩いてきたベテランで、僕らより歳も少し上で…もしかしてMKHには合わないのかなと思って、僕はシビアな気持ちだったんですけど。

それでも彼からの希望もあり一緒にスタジオに入りまして。その際ちょっとかつてない衝撃的なドラミングを披露されたので、その段階で『入ってもらえませんか?』という話をして。」

-僕もTakaishiさんが加入された直後のライブを見させていただいて、ドラムの一音目が鳴った瞬間にとてもびっくりして、周りのオーディエンスも驚きすぎて爆笑していた記憶があります。外タレのドラマーみたいな音ですよね。

「メンバー全員びっくりしましたね。ドラムの演奏に関する練度がかなり高くて。しかもバンドに対して積極的に歩み寄ってくれるドラマーで、すごくMKHの演奏自体が強化されまして。一般的に言われる歌うドラムとはまた違って、僕は唸るドラムと言っているんですけど。
言葉を発する訳ではないけどすごく強そうな感じがあって、安定感もパワーもある。彼のおかげでMKHはすごく良くなりましたね。」

-キャラクターとしてはどんな人なんですか?

「なんというか、すっとぼけた三枚目ですね。すごく明るくてメンバーのことをケアしてくれたり、優しい雰囲気の人です。」

-じゃあバンド内ではムードメーカー的なポジションで?

「う~ん。スベってるときの方が多いんで僕もフォローに苦労しているんですけど、ドラムが上手いので。(笑)」

-仕事ができるから多少のことは許される的な。(笑)じゃあ次はAkaneさんについてお願いします。

「実は中学の同級生で。当時は全く仲も良くなくて、お互い「変なやつやな」と思ってたみたいなんですが、お互い高校生になってから仲良くなりまして。
いわゆるUSインディーであったり、音楽の趣味やサブカルチャー的な趣味がすごく合っていて。彼女自身はバンドをやっていたというわけではないんですが、前任のメンバーがやめるタイミングで、MKHにAkaneは条件がすごく合いそうだなと思って。
突然電話をかけて「ちょっと上京してくれへんか」という話をしまして。そしたら翌月には本当に東京来てたんで…やっぱり変なやつやな~と思いつつ。(笑)
それでも音楽であったり映画であったりサブカルチャー全般に対する解像度が非常に高く、僕やDaiki Usui(Ba.Cho.)と昔から仲が良くてバンドメンバーとしての馴染みやすさもあったので、結果的に彼女が加入してくれてすごく良かったと思います。」

-MKHって大阪時代からメンバーの入れ替わりがすごく激しかったじゃないですか。歴代メンバーが十数人に及ぶとか。
その点Takaishiさんはキャリアのあるドラマーでありながら片手間でMKHをやっているような雰囲気は全然無いし、Akaneさんは地元からわざわざ呼び寄せた旧友であったり、今の5人はこれまででも一番安定感を感じます。

「大阪時代はすごく享楽的に活動していたので。好きな音楽、純粋なポストパンクをやっていくという意味ではストイックだったのかもしれないですけど。
東京に来てからミュージシャンとしての自覚を持ち、より大きな課題に取り組んでいくという姿勢が芽生えました。そういった中でメンバーを固定することはすごく大事な要素であるなと思いまして。武器を持っていたり人間的に強く繋がれる人がいい。
っていうことで、関係は無かったけどミュージシャンとしてレベルの高い方を迎えたり、逆にミュージシャンとしてのキャリアはないけど旧知の友達であったり。今までの中でも一番いいメンバーが揃ったなと思いますね。」

-空気感やモードも変わってきましたか?

「すごく良くなりました。スタジオでの空気も明るくなったりして。
実際音源に関してもライブに関してもすごくクオリティは上がっていると思うので、今が一番良い状態だなと思います。」

シーンやコミュニティを作っていきたい

-MKHは非常にストイックで鍛錬に励む努力家なバンドというイメージがあります。
具体的にどんなペースでどんな練習をされているんですか?

「5人全員のスタジオは不定期なんですが、バンドメンバーの個人練習や、2、3人の練習に関してはほぼ毎日誰かがスタジオに入っている状況です。
そうして技術面を高めた中で、節目節目で全員が集まるスタジオも設定して。毎回議論やダメ出しを飛ばし合う時間がありますが、それも嫌な雰囲気もなく、楽しくも真剣にやってますね。
昔はスタジオで怒鳴り散らかしてた時期もあったので…喉の体力の中で歌に割ける割合が増えて良かったですね。(笑)」

-(笑)。このEPのリリースに伴い、俯瞰的にみてMKHはシーンの中でどういう存在になっていくと思いますか?もしくはこうなりたいという理想はありますか?

「そうですね…僕は活動の見立てを立てる上で、まだ経験値不足であったり情報不足な部分が否めなくて。それでも着実に一つの音楽を扱うカルチャーの中で…
これ僕初めて言うんですけど、シーンを作っていきたいなと思いまして。
何かコンセプト・意義・美学がある中で組まれたムーブメントに対して、人・場所・リソースが循環している状態、いわゆる健全な文化というものを作りたくてですね。
今までこういったことには本当に興味がなかったんですけども。でもこれはきっと誰かがやってきたことで、誰かがやり遂げられなかったことだなと。
自分たちがやり遂げられるかは分からないですが、それでも礎の石の一つになるのは悪くないなと思いまして。シーン、文化を作るのが僕たちの一つの目標になりましたね。」

-インタビュー冒頭に「売れにかかりました。」という一言があったり、歌詞にも逆境でも立ち向かって進んでいこうというようなニュアンスが含まれていて、今までになかった覚悟が芽生えてきたというか、明確に変化があったように感じます。

「良いものを作るのは今まで通りなんですが、ただ良いものを消化されないというか流れを作ろうと思ってまして。そういう風にして続いてきた文化の橋渡しであり、上手いこと行けば終着点を目指して…そういったことに取り組む覚悟ができたかなと思います。」

-気持ちの切り替わりと共に先日はHAPPY、PLASTICZOOMSとの対バンもあったりとインディーロックシーンにアプローチできる機会も増えてきていますよね。

「まさに自分がちょっと意識したタイミングでそういう話も入ってきたり、志を持って取り組まれてる方が身の周りに集まってきたりするようになりまして。
その中で意味のあるものを作っていきたいなと思っています。」

-そういった志を持った先の到達点ってイメージしてますか?

「今サウスロンドンのオルタナティブジャンルがすごく盛り上がっているじゃないですか?あれもすごく時代錯誤なロックサウンドをやっていて、僕らもそのくらい古めかしい部分もあると思うんですけど。僕らも含めて世界中の注目がロンドンに集まって、世界中のフェスにそういう人たちがポンポン出ていて。一つのムーブメントとして確立されかけている気がするんですね。

同じように、超個性的であり実利を伴っているカルチャーを作ることが最終的には目標ですね。
元々コミュニティを作るということはすごく好きで。ずっとバーで働いていたり、酒場をウロウロする若者だったので、そういう文化圏には居たのかもしれないですね。コミュニティが機能している場面も、機能不全に陥っている場面もたくさん見てきたので。
音楽以外の生活ではコミュニティを意識することもあったんですけど。改めて今自分が手に持ってるバンドの力を見返したときにコミュニティ、カルチャー、シーンを作るという目標も狙っていけるというか、そこに勝算が見えまして。積極的に動いていこうかなという感じです。」

-Taitoくんの中に元々あった性質がバンドのモードとも噛み合った感じなんですね。
今のMKHはそういった理想に対してズバリ何%のレベルに達していると思いますか?

「35%ですかね。あとは勝手に上がっていくため色んな武器が揃うことを待つばかり。下準備は済んだ上での35%かなと思います。」

-ではそれらを踏まえてファンの皆様に最後に一言いただけますか。

「僕はヒーロー扱いされることに嫌悪感というか…無責任なことを言えないと思っているのであえて適当なことを言ってきた側面はこれまであったと思うんですが…。
これから先はちょっと面白くなりそうな雰囲気があるので、まずは今どういう状態かというのは僕らの音楽を聴いていただいて知っていただいた上で、ぜひ諸々楽しみにしておいてもらえればと思います。
そして、もしよろしければ文化を作る上で人の熱意が必要な活動に関して、お力添えをいただければ幸いです。」

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