夕暮れ/いつも薄曇りの/酒と小便の/匂い立ち込める/この街/
向こうから/変なおっさんが歩いてくる/変なおっさんだらけの中でも輪をかけて変なおっさん/見た瞬間分かる/アレ俺に来る/わあ、嫌やなあ、来んな、来んな、来んな! と念じていると/やっぱり来る/なんでなん?/
当然ノンマスク/黄ばんだ歯ぁボロ欠け/顔面煤け倒してる/「ボートレースってどこでやってはります?」/ちょうど疫病で休みのタイミング/「今日はやってませんわ」と答えると/「せっかく来たのに」と/おっさんがっかり/
「遠くから来られたんですか?」と言うと/おっさんが指差した先は/そこのパチンコ屋/
おっさんは去っていった/「ボロ負け! ボロ負け!」って俺に言いながら/ピースサイン掲げて/ニッコニコで/なにわろてんねん/負けてんねんぞ/負けてんのに笑うなや/人間で良かったな/動物やったら死んでんぞ/負けてんのにヘラヘラ笑う動物って人間だけやぞ/
いや……もしかして負けてんのに笑えるのが人間の力なんか? そういうことを教えるために俺に遣わされたなんらかの神の化身やったりするんか/あのおっさんは/
それから二年後/マカオのバクチで/姑娘(クーニャン)相手に/会社の金まで/すべてスッた俺は/身ぐるみ剥がされて/雨の降る路地裏に/裸で放り出された/その時/俺は/確かに神の教え通り/笑っていたのだった/「ボロ負け! ボロ負け!」
